すべての人に愛がある--。
ロベルト・ベニーニが描く、詩人の愛と、愛にすべ てをかける男の物語
本作は、私が長い間、映画化したいと思っていた愛を描いた作品です。主人公は愛に突き動かされる男です。この世で最も破滅的で、革命的な力を持っているのが愛です。私はこの作品を、真っ白な雪のように清らかに、虎のように激しく描き出したい(原題:The Tiger and The Snow)、と長年思い続けていました。
愛のためなら命を捧げる男が、愛する人のために本当に命を捧げる。ところがその女性は、この風変わりな男とかかわりあいたいと思っていない。詩を書いて生計を立て、ひとつの言葉を探し出すのに何日もかける、この感性豊かな変わり者は、彼の言葉が彼自身の心を打つならば、その言葉を耳にする人すべての心も打つはずだと信じている。ところが彼は、死ぬほど愛する女性の心だけは動かすことができない。どれだけ彼女の後を追い、話しかけ、時間を費やし、昼も夜も共に過ごし、必死で彼女への永遠の愛を伝えようとしても、その想いは伝わらないのです。
アッティリオは毎夜夢に見る女性を追い求めて、2003年3月に開戦したイラク戦争という、最も不条理で恐ろしい場所までたどり着きます。これは詩人の愛と、愛にすべてをかける男の物語なのです。悲劇と喜劇、地雷原、言うことを聞かないラクダ、略奪者、爆撃、瓦礫の山といった困難が待ち構える中に、愛する女性の命を少しでも長らえさせるため、アッティリオは飛び込んで行くのです。それは、彼にとって、このひとりの女性の死が、世界中の死に等しいものだからです。
しかしアッティリオの愛は、決して甘く感傷的なものではありません。むしろ、飢えや恐怖をも超えて、餌を求めて獰猛に飛びかかる虎のように激しい愛なのです。アッティリオにとって、愛することを恐れるのは、生きることを恐れているも同然であり、生きることを恐れるというのは、まさに死んだも同然なのです。すべての人間の中に愛があることを絶対的に信じているこの詩人は、そうした自らの信念を伝えようとします。人の中にある愛の姿を表現することこそ、「詩」の目的であり、あらゆるアートの目的なのです。このストーリーは主人公と彼の感情に焦点を当てています。それ以外の無意味な出来事やすべての不条理は描き出すことが不可能なため、単にそれとなく描き出し、矮小化しているに過ぎません。
我々は、できるだけストレートにストーリーを描き出すことで、予想を超える感動が用意された思いがけない結末を迎えるまでの間に、観客のみなさんには、驚き、混乱、不安、そして何よりも面白さと感動を味わってほしいと思っています。さらに「真実はもっともらしい嘘と共に語らなくてはならない」という、詩人アッティリオの言葉にあるように、この作品にはリアリティと共に、ある種の自由を加えているのです。
本作で、心からの驚き、混乱、不安、面白さと感動を伝えられることを祈っています。欲張りすぎかもしれませんが、そんなことは気にしません。その中のひとつでも感じてもらえれば、これが特別な映画という意味になるでしょうから。
Author:james stewart
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